最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)611号 判決 1959年2月26日
主文
原判決を破棄し、第一審判決を取消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟費用は全審級を通じ被上告人の負担とする。
理由
上告人岡忠孝の上告理由について。
被上告人が第一審以来主張するところを要約すれば次のとおりである。すなわち、弁護士である被上告人は事柄の真実と裁判の公正を愛する立場から、常日頃、裁判所が結論に合致さすべく、当事者の主張を作り上げることに、不満を感じ、これを是正すべく念じていたところ、たまたま、被上告人が原告となつて提起した神戸地方裁判所昭和二二年(ワ)第一五八号家屋明渡等請求事件の第一審判決の判文に、被告側訴訟代理人であり弁護士である上告人から何ら陳述されていない権利らん用の抗弁が主張されたこととして記載されていたので、右事件の控訴審において、控訴人であつた被上告人は相手方と和解し、控訴を取下げることとなつた際、かかる機会にこそ予て不満とする不正な裁判のあることの証明を具体的に得らるべく思惟し、被上告人は上告人に対し、右和解の一条件として、果して上告人は右判決に記載されているとおり権利らん用の抗弁を主張したかどうか、一件記録を調査の上に回答されたく要求したところ、上告人はこれを承引した。よつてここに右和解契約(昭和二五年七月一四日成立)の一条項として上告人は右内容の如き事実を報告することを約定したものであるから、本件においてその履行を求めるというのである。
しかし、右のような約定は、われわれの日常生活においてなす友誼的な軽い約束のたぐいであつて、当事者はこれに拘束される意思あるものとは解し得られないから、右は法律上の保護に値しないものと認めるを相当とする。しからば、右約束の履行を求める被上告人の請求は、その主張事実自体に照し失当のものというの外がないから、所論は結局理由あるに帰し、原判決はとうてい破棄を免れない。そして当裁判所は、事件が右主張事実に基き裁判をなすに熟しているものと認めるが故に、第一審判決を取消した上被上告人の請求を排斥すべきものとし、よつて民訴四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 高木常七)